他人の空似

創作小話やネタなどをだらだらと。

CCC!!/Crash and Crisis in the City④

 

 初めましてお父さん、さようならお母さん。

 

 裏庭に出た時と同じように扉をくぐると食堂につながる。食堂は広く10人ほどが座れそうな長いテーブルが部屋の中央に置かれている。

「あら、もういたんですね」

 有栖川がそういうとテーブルにはもう2人が席についていた。

 茶髪のチャラそうな男と、中学生ほどの年の少年だ。

「奥の方が相坂さん、手前の男の子が前園君。相坂さんは壱〇六号室、前園君は壱〇九号室ね」

 チャラい男が相坂、少年が前園らしい。

「他の人は?」

「ここにはまだいないから、きっと遊技場ね。足立さんは壱〇参号室、支倉さんは壱〇七号室ね。あんまり話したことないけど、面白そうな人よ」

「あれ、壱〇八号室の人は?」

「その人は会ったことないから、多分これから来るんじゃないかな」

 有栖川は前園に近づくと声をかける。

 前園は近づいてることに気付くと席を立つ。

「おはようございます、有栖川さん」

「おはよう、前園君」

 挨拶を交わすと、前園は私の方を見る。

「今日来た、遠江董子だ。よろしく。壱〇五号室だ」

 当たり障りのない挨拶をすると、前園の方もよろしくお願いします。と話す。

 私たちが隣り合って座ると、視線を感じる。視線の主は相坂だった。

 目が合うとにこりと人の好さそうな顔をする。

「よろしくね」

 相坂はそう言うとこちらに手を振る。それに気づいた有栖川は私の手を引く。

「相坂さん、女なら誰でもあんな感じだよ」

 チャラいうえに誑しなのか……。

「君はどうしてここに来たんだい?」

「は?」

 相坂は興味津々と言った風に話しかけてくる。しかし、どうしてここに来たと言われても、私には答えることはできない。あの女に言われてきた?却下だ。私のプライドが許さない。自分で決めたことならまだしも、誰かに言われてきたなんて言いたくはない。

「ただの芸術家よ」

「へぇ……」

 相坂は意味深な顔をすると有栖川の方にも顔を向け、君は?という。

「私は機械に強いだけよ」

 有栖川は心底煩わしそうに言うと視線を外す。

 あの女から渡されたUSBメモリには、この私の仕事内容とこの場での立ち位置しか入っていなかった。ここに集まった人間は老若男女、腕利きの技術者ばかりで私も技術者としてこの場にいる。実際は機械など扱えないがそのことを知っているのは、私と遠江とあの女だけだ。

「でも、こんなに人を集めて何をするんでしょうね。社長自ら僕たちの実力を見るにしては、なんか違うような気がするのですが」

「それもそうね……。私たちのことを知りたいのなら、適当なプログラムでも吹っ掛けて来ればいいのに、なんか別のことを品定めされてるみたいよね」

 有栖川と前園はそう言うと二人してこの集会の意味を考えているが、そもそもそんなことは関係ない。この集まり自体に意味はないのだから。しいて言うなら、社長である嘉藤喜久が会いたいが為に呼んだ集まりだ。

「あら、もう昼食の時間ね」

 時計を見れば12時を少し過ぎたころ合いだった。

「おや、まだ4人しか集まってないのか」

「俺たちが最後だと思ったのにな」

「足立さん、支倉さん……」

 声がした方を見れば体格のいい男が二人並んでいた。私たちが来た扉とは別の扉から入ってきた。片方は短めの髪を後ろへ撫で付けた髪型をしており色黒、もう片方は癖の強い茶髪を1つに結った無精髭の男だ。

「他の奴は?」

「須賀さんのこと?彼ならそろそろ来るんじゃないかしら」

「先に食っちまうか?」

「すぐ来るだろ、少し待ってような」

 男二人は相坂の反対側の席に隣同士で座った。

「……あの人が足立さんと支倉さん?」

「ええ、そうよ。色黒なのが足立さんで、茶髪なのが支倉さんよ。2人とも、私の後に来たんだけど初対面から意気投合しちゃってずっと遊戯場で遊んでるのよ」

 2人は遊戯場での内容なのか楽し気に話している。

「遅れました」

 今度は私たちと同じ扉から須賀が入ってきた。後ろには使用人の渡井が一緒にいる。初めて声を聴いたが中々のいい声だった。イケメンは声までもイケメンなのか。

 須賀は相坂の隣に座る。丁度、須賀と支倉の間に1席空いている。

「後誰だ?」

「今いるのはこれで全員のはずですよ」

「部屋数で言うなら後1人は増えますね」

 前園が言うとおりになれば壱〇八号室に入る招待客が来るはず。

「それでは、皆さんお揃いになりましたので昼食にいたしましょう」

「マジかよ」

 厨房らしき扉から現れたのはあの女、蓬生花楓だった。思わず嫌な顔をしてしまったがあの女はそれをスルーした。

 女の言葉を合図に厨房の扉からは続々と使用人たちが出てきては料理を並べていく。私の前には豪勢な肉料理が置かれた。

 皿の上には分厚い肉が置かれ、左右にはフォークとナイフが並べられる。

「これは……」

「おや、お肉はお嫌いでしたか?」

 振り返れば後ろにはあの女がいた。前にも似たように後ろをとられたな。

 女はニヤニヤと厭味ったらしく笑うと肉が乗っけられた皿を下げようと手を伸ばす。

「いや、肉は大好物だ」

 意趣返しのつもりで腕を撥ね退ける。女はつまらなさそうに「そうでしたか」というとさがっていった。

「トウコちゃんってあの使用人さんと知り合いなの?」

「いや、知り合いっていうか......ここまで案内してくれた人かな」

 嘘は言ってないな、うん。

「アンタ、俺たちの他に誰か来るか教えてくれないか」

「今回ご招待したのは皆様で全員です」

「ならとっとと始めてほしいもんだな……」

「申し訳ありません。夕食時には社長自らお見えになりますのでもうしばらくお待ちください」

「はいはいわかったよ」

 足立は苛立ち気に言うが女はにこやかに言う。

 しばらく忘れていたが、真紀に食べ物を持って行かないとな。

「ごめん、私は部屋で食べるわ」

「具合でも悪いの?」

「なんだか疲れたみたいだから、部屋で休んでるよ」

 そう言って使用人に後で部屋に食べ物を持って来るように頼むと私は部屋に戻った。

 来た時とは別の扉、足立と支倉が来た扉とも別の扉から出ると大広間に繋がっている。広間にはソファチェアや調度品、よく分からない壺や絵画が配置されている。

 その中を1人で進む。

「何の用?」

「おや、わかってしまいましたか」

 そう何度も後ろをとられると私の立つ瀬がなくなる。

 女は何が面白いのかクスクスと音をたてながら笑う。

「用がないならあんまし関わらないでよ」

 不快感を込めて言うが女は意に介さない。どんだけ心臓強いんだよ。日本人ってもっと謙虚じゃなかったのか。

「失礼、貴女の反応が面白くてつい。いえ真面目な話、貴女のお耳に入れておいた方が良いことがありましてーーーー」

 

「壱〇八号室に入る予定だったお客様が遺体で見つかりました」


「発見したのは貴女のお連れの方ですね。確か遠江真紀様でしたね」
「真紀が……」
「ええ、死んだ方は後藤輝幸様。元はこの集まりで撮影を頼んでいたカメラマンです。発見場所は屋外のプールで。真紀様によれば、裏庭を歩いて居る時に飛び込む音がして様子を見に行くと既に死んでいたそうで」
「そうか」
「今はお部屋にてお休みいただいております。災難でしたね」
「このことは?」
「一部の使用人以外とお客様には知らせていません。遺体は回収済み。死因は紐状のもので絞められた絞殺かと」
「そうか」
「お部屋に戻られますか」
「そうするよ」
「夕食はお部屋にお持ちしましょう。皆様には体調を崩されたと話しておきます」
「頼むわ」
 振り返り部屋に戻る。ついてくる気配はしない。そのまま黙々と部屋へと向かいカードキーで中に入る。
 中では半泣きになっている真紀がソファに項垂れていた。見るからに憔悴しきっている。
「大丈夫か」
「俺は大丈夫だけど……」
「お前はもう休んでいろ」
 背中をなでながら話せばようやく肩の力を抜いた。
「ベッドは使っていい、夕食は部屋に運ばせる」
 真紀はありがとうと言うと昼間だがベッドに横になる。
 日が沈むまで隣にいれば寝息の音が聞こえてくるようになった。
 窓からは月明かりが差し込み、裏庭の様子がよく見える。
 周囲は不気味なほど静かだった。