他人の空似

創作小話やネタなどをだらだらと。

CCC!!/Crash and Crisis in the City③

 

 手を差し伸べたって誰も来ないよ。

 

「マジか」

 青い空に白い雲、ここが海辺なら最高なんだが……生憎ここは高層ビル、K.T社の本社ビルの最上階だった。先日のあの出来事から三日程経ったが、あれから蓬生とかいう女は会うことはなかった。会うことがなかったが同僚と思しき女はずっと近くに感じていた。

 喫茶店で暇をつぶしていたら、いつの間にかUSBメモリがテーブルに置かれていた。公園のベンチで寝ていたら足元に置かれたりとしていた。その度にUSBメモリを壊していたが、何度もするのが嫌で半ば根負けした感じだった。

「快く受けていただきありがとうございます」

「マジか」

 後ろにいつの間にか女がいた。それも蓬生花楓だ。女は恭しく礼をするが私には慇懃無礼な態度にしか見えない。

「お前らがしつこいから来てやったんだよ」

 言外に感謝しろと伝えるが、女はとぼけた様子だった。

「まあまあ、結局は来てくれることになっていましたよ」

「は?」

 女は私の隣を過ぎると最上階に建てられていた建物に向かう。

「どうぞ、お連れの方もこちらに」

「マジか」

 隣の男は震えながら私の腕を掴んでいた。本当にここに来なきゃよかったと早くも後悔し始めた。

 

「入って正面のフロントには使用人が控えています。何かあればここに来ればいいでしょう。右手には広間と食堂、左手にはお客様のお部屋、正面の階段からは社長のプライベートルームになります。下には遊戯場がありますのでお暇なときにはご使用ください」

 女は手で示しながら説明をする。

 床はベルベットのカーペットが敷かれ、玄関の天井には豪奢なシャンデリア、壁にはよくわからない絵画が掛けられている。こういうのをナントカ調と言うみたいだが詳しくはわからない。しかし、どれも金が掛かっていそうだ。

「それとこれが、お客様のお部屋になります」

 フロントの使用人らしき中年の男から部屋番付きのカードキーを受け取るとそれを私たちに手渡す。

「お部屋はご一緒でもよろしいですよね」

「構わない」

 隣の男も首を縦に振りながら頷く。両手は相変わらず私の腕を掴んで離さない。そろそろ鬱血しそうなので放してほしい。

 受け取ったカードキーには《壱〇五》と金字で刻印されている。

「お部屋に向かわれますか?」

「荷物とコイツを置いてくるわ」

「かしこまりました」

 左手の大きな扉を開けると一直線の廊下がある。左は窓が並び、右には客用の部屋が続く。廊下の突き当りは右に曲がっていて先が見えない。

「貴女たちのお部屋はこちらですね」

 手前から4番目の部屋の扉に案内される。扉の左には同じ部屋番が書かれた金のプレートがある。その下にはカードキーを入れる機械がとり付けられていた。

「では私はフロントにいますね。部屋の電話はフロントに直通ですので何かあればお使いください。荷物は既に部屋にありますので」

「そ、ありがとね」

「では……」

 女はそう言うと背を向けて今来た廊下を戻る。私はそれを見届けると、カードキーを挿入して男を部屋に入れる。オートロック式なのか、扉を閉めると鍵が閉まる音がする。

「いい加減放せ」

 力任せに男をベットに放り投げる。ぐえ、と汚い音を出すが起き上がる様子はない。

「そんなに高いところが怖いのか?」

 男、遠江真紀はうつ伏せのままこちらを見ると、大きなため息を吐いてシーツに潜り込んだ。

「なんで社長の家に来なきゃいけないんだよ......」

「お前が行きたいと言っただろうに」

「だからって行く先が社長の家だとは思わないじゃないか!おまけにここ何階だよ!!」

「ビル自体は32階だな。屋上だから33階にでもなるのかな」

「そういうことを聞いてるんじゃないんだよ……」

 真紀は「詐欺だ、詐欺だ......」と繰り返しながら頭までシーツに包まってしまった。

 天蓋付きのベットはキングサイズなので私も一緒には寝れそうだが、コイツと寝る趣味はないのでソファーにでも寝るとしよう。試しに座ってみるが程よい反発なのでこれなら体を痛めることなく寝れそうだ。

 部屋の右隅に今通ってきた扉とは別の扉があった。興味本意に覘くと洗面所とトイレ、バスルームがある。どれも白く光っているし、洗面台の蛇口には金の装飾がある。どこを見ても如何にも金持ちといった感じだ。

 元の部屋に戻るとクローゼットの前に自分たちの荷物を発見した。私の荷物は元々少なかったのでスポーツバック1つのみ。真紀のはキャリーバッグの大きいのが二つだ。普通こういうのは女の方が大荷物なのではと思ったが、昨日の夜に真紀から「お前の分も用意してやるから」と言われて何も考えずに了承したのを思い出した。このカバンのうち、どちらかが私に用意したものだろう。

 後ろのベットを伺えば地鳴りの様に唸りながらまだ蹲っていた。社長、という肩書の人間に会ったことはないし、どこかに勤めたことのない私にとっては、どのような感覚なのかは分からなかった。もしかしたら、彼にとっては悪いことをしてしまったのかもしれない。

 着ていた上着をクローゼット内のハンガーに掛けながらそう思う。

 そういえば朝から何も食べてはいないことに気付いた。時刻は昼時を回ろうとしている。真紀に何か食べるか聞こうとしたが、あの様子ではろくに入らないだろう。ルームサービスのように届けてもらおうかと思ったが、何があるかわからないし探検がてら食堂に行こうと考えた。

「外に出るがお前は休んでろよ。なんかあったら呼べ」

「あー……」

 ベットから片腕を出して振るので、一応聞こえていたようだ。

 カードキーを右の尻ポケットに入れてドアノブを開く。廊下には誰もいない。窓から見える空には雲しか見えない。32階ともなれば虫や鳥はなかなか来ないだろう。

 少し考えて右に進む。右はずっと客室が続いているが、突き当りが右に曲がっていた場所だ。そのさらに奥に行く。

 

 暫く歩くと突き当りに到着する。そこから右に曲がると誰かがいる。初めて見る人間だ。

「あら、あなたここの人?」

 少女は音楽を聴いていたのか耳からイヤホンを外す。

「いや、さっき来たばっかだから探検を」

「そうなの。私は昨日からいるから少し先輩ね!」

 得意そうに言う少女はサラサラの黒髪を波立たせながら跳ねる。

「私、有栖川悠っていうの。壱〇壱号室にいるから暇なら遊びに来ても良いわよ」

「私は……遠江董子だ」

「トウコちゃんなのね。ここ、男の人ばっかで女の子はトウコちゃんが初めてだわ」

「他の人は何処かにいるのか?」

「皆、自分の部屋か遊戯場にいるわ。今はお昼が近いから食堂にいるかもしれないわね」

 案内してあげる。と有栖川は言うと私の手を引っ張る。

「こっちは食堂ではないぞ?」

 彼女が進むのは私が向かおうとしていた方だ。食堂に行くなら引き返してフロントの前を通るべきだ。

「ここの一階って横に長いロ型なのよ。フロントから左側が客室、右が食堂や広間なの。この先には裏庭に出る扉があって、そこを通るとと食堂に行けるの」

 ちょうど真ん中に使用人さんたちの部屋がある感じね。

 そういうと有栖川は駆け足で私を連れていく。足取りは軽く楽しそうだ。

「あら、まだ居たわね」

 外に出る扉を開けると裏庭にはバラの庭園が広がっていた。つくづく思うが、ここの社長は西洋文化、それも中世のが好きなのかも知れないな。

 バラの庭園の中央、東屋の下に誰かいた。青年よりは年がいってそうな男だ。外は暑いのに上下黒の服を着て、本を読んでいる。

「彼は須賀さんよ。私の隣、壱〇弐号室の人ね」

 彼はこちらに目を向けることなく本を読んでいる。この距離では私たちの会話が聞こえると思うが、我関せずでページをめくる手は止まらない。

「さ、次に行きましょ!」

 更に手を引かれると今度はプールがある場所に来た。水で満たされたそこは太陽の光を反射して輝いている。今は誰も使用していないが、プールが使えるのだとしたら気分転換に泳いでみるのも悪くないのかもしれない。

「ここにプールがあるなら水着持ってくればよかったわ!」

 全く同感である。

「お嬢さんたち、どうしましたか?」

「あら、鐘司さん。さっきぶりですね」

 建物側の、おそらく使用人室から現れた男性は快活そうに笑うと有栖川に声をかけた。有栖川の口ぶりからすると、私と出会う前は彼と話していたのだろう。

 鐘司さんと呼ばれた男性は私に目を向けると恭しく一礼をした。

「私はこの家の庭を管理してます、渡井鐘司と言います」

「あ、遠江董子です」

「お二方はどちらに?」

「今日来たばっかの彼女にここの案内をしていたの」

「そうでしたか、なら案内図でもお渡ししましょうか?」

「いいわ、私が案内するもの!」

 渡井は懐から紙を出すが、有栖川は受け取るのを拒否した。はたから見れば幼い子供のようだ。

「そうでしたか、では必要になりましたらフロントへお申し付けください」

 有栖川の態度に目くじらを立てることなく渡井は言うと、バラ園の方へ進もうとする。

「そっちには須賀さんがいますよ」

「はい、先ほど須賀様からお昼時に声をかけるように頼まれましたので」

 何気なく声をかければ、渡井からりと笑いながらこちらに背を向けた。

「私たちもそろそろ食堂に行かないとね」

 腕時計で時間を確認した有栖川がそういうと、私たちはプールの前を横切り食堂へと足を運んだ。