他人の空似

創作小話やネタなどをだらだらと。

CCC!!/Crash and Crisis in the City①

 

 一番不幸なのは、自分が孤独だと思い込むことだ、と思う。

 

 墨を垂らしたような空には星がない。ずっと昔に読んだ本には、街に光が多すぎると星は見えなくなるらしい。

 屋上のフェンスに寄りかかり、空を見上げる。街の光を反射して雲が見えるだけだ。

 この街は明るすぎる。今は深夜に差し掛かった時間なのにまだ静かにならない。

 カバンから煙草を取り出し火をつける。煙は強い風に煽られすぐにどこかへ消える。灰も一緒に連れていく。

 吸い込むが一向においしく感じられない。昔は大人になったら吸いたいと思っていたが、今ではどうでもよくなっている。

 誰も煙草がおいしいなんて言ってないな。

「不味いな」

 煙草は半分以上残して捨てる。未だに最後まで吸えたことはない。

 待っている人物はまだ来ない。特に時間指定はしていないが、何時もだったらもうとっくに来ているはずだ。自分から迎えに行ってもいいが、すれ違いになれば面倒だ。

 こういう時にケイタイがあれば便利なのだが、住所も戸籍もない自分には手に入れることが難しい。

 他にも欲しいものならたくさんある。車、家、テレビ、音楽プレイヤー、パソコンだってほしい。もちろん、はやりの服や靴も欲しいし、なんだったらアクセサリーを買ってオシャレしたい。モノじゃないけど、遊園地に行ってもみたいし映画も観てみたい。

 だが、先立つもの……お金がない。その為には働かないといけないが、まともな職に就こうと思ってもできない。住所不定に義務教育未就学、まともな経営者なら誰も雇ってはくれない。住所も戸籍も自分には必要ないものだと思っているが、自分の身を証明できないのは歯痒い。職に就けないこともそうだが、他に困ったことに病気になったとしても病院にかかることもできない。

 いや、そもそも普通とは違うこの体ではどこも役に立たないか……。

 そこまで思考してからフェンスから振動を感じた。

 出所は後ろのビル階段ではなく、非常階段からだ。階段の鉄のステップから手摺りへ、手摺りからフェンスへ振動が伝わる。

「……」

 懐から使い慣れたナイフを取り出し、袖の中に隠す。

 上ってくる人間は休むことなくこちらに来る。ここからでは死角になっているので相手の姿は見えない。来るのは一人だけ、体重が軽いやつ、たぶん女。

 非常階段は左後ろにあり、反対側にはビル内の階段がある。障害物になりそうなものはここにない。四方はフェンスに囲まれてはいるが飛び越えられない高さではない。隣のビルは遠くて飛び移れない。

 ただの物見遊山なら少し脅して帰っていただこう。そう思いながら夜の街並みを見下ろす。明るすぎて目が痛くなる。煙草を探すが何処にもない……あれが最後の一本だったのか。

 足音が止まる。振り向けば、女が立っていた。小綺麗な格好をした女だ。ここはオフィス街なのでこんな格好をした女がいてもおかしくはない。だが女はこちらを真っ直ぐ見つめる。ただの物見遊山ではなさそうだ。

「お初にお目にかかります」

 丁寧な口調で言うと、女はこちらに歩み寄ってきた。

「私、蓬生花楓といいます。以後お見知りおきを」